今回は、Echo Creative Studioで実際に手がけたレストランブランディングプロジェクトを詳細に分析します。横浜みなとみらいにオープンした和食レストラン「和音(わおん)」のブランディング開発プロセスを通じて、クライアントの要望をどのように形にしていくかを学んでいきましょう。
プロジェクト概要とクライアント分析
クライアント背景:
和音は、伝統的な和食技術と現代的なプレゼンテーションを融合させたレストランとして企画されました。ターゲット顧客は30-50代の都市部専門職、特に接待や記念日での利用を想定しています。立地はみなとみらいの商業施設内で、国内外の観光客も多く訪れるエリアです。
初回のクライアントミーティングでは、「日本の美意識を大切にしながら、国際的にも通用するブランドイメージを作りたい」という要望が示されました。また、「高級感はありつつも親しみやすさも表現したい」という、一見矛盾する要素のバランスが課題として浮上しました。
ブリーフ作成とブランド戦略
詳細なブリーフ作成のため、3回のワークショップを実施しました。まず、ブランドパーソナリティの定義から始めました。「洗練された」「温かい」「本物の」「革新的な」という4つのキーワードが最終的に選ばれました。
競合分析では、同エリアの高級和食レストランを調査し、多くが伝統的すぎるか、逆にモダンすぎるかという両極端に分かれていることを発見しました。この分析により、「伝統と革新の絶妙なバランス」というポジショニングが明確になりました。
ターゲットペルソナも詳細に設定しました。主要ペルソナは「国際的な視野を持つ日本のビジネスパーソン」で、海外出張も多く、本物の価値を理解し、体験にお金を投資することを惜しまない層です。
ロゴデザインの開発プロセス
ロゴ開発では、「和音」という店名の持つ「調和」と「音楽性」という概念を視覚化することに焦点を当てました。初期スケッチでは30以上のアイデアを検討し、最終的に3つのコンセプトに絞り込みました。
選択されたコンセプト:
最終的に選ばれたデザインは、日本の伝統的な「結び」をモチーフにした抽象的なシンボルマークです。2つの線が美しく交差することで「和音」の音楽的調和を表現し、同時に食材と技術の融合も象徴しています。
タイポグラフィには、現代的な和文フォントをベースにカスタマイズした文字を使用しました。「わ」の文字に特別な処理を施し、シンボルマークとの統一感を演出しました。英語表記も開発し、国際的な場面での使用にも対応しています。
カラーパレットと視覚言語の確立
色彩設計では、日本の四季を表現できる豊かなパレットを開発しました。メインカラーは深い藍色(#1E3A8A)で、信頼性と深みを表現します。アクセントカラーには温かみのある金色(#F59E0B)を採用し、高級感と親しみやすさを両立させました。
サポートカラーとして、季節ごとの料理メニューに合わせて使い分けられる4色を設定しました。春は桜のピンク、夏は若葉の緑、秋は柿の橙、冬は雪の白です。これにより、年間を通じて新鮮なブランド体験を提供できます。
アプリケーション展開と実装
ブランドアイデンティティが確立された後、実際の店舗で使用される様々なアプリケーションを開発しました。メニューデザインでは、料理の写真を美しく見せるレイアウトを重視し、読みやすさと美しさを両立させました。
店舗サイネージでは、ブランドの世界観を空間全体で表現するため、照明との相互作用も考慮したデザインを提案しました。特に、入口の看板は遠くからでも認識しやすく、近づくにつれて繊細なディテールが感じられるよう設計しました。
ユニフォームデザインも重要な要素でした。伝統的な和の要素を現代的に解釈し、スタッフが誇りを持って着用できるデザインを追求しました。ロゴの刺繍位置や色使いにも細心の注意を払いました。
ブランドガイドライン作成
プロジェクトの最終段階では、包括的なブランドガイドラインを作成しました。このガイドラインは80ページにわたる詳細な資料で、ブランドの哲学から具体的な使用方法まで網羅しています。
特に重要なのは「してはいけないこと」の明確化です。ロゴの誤用例、不適切な色の組み合わせ、NGなレイアウト例を豊富に示すことで、ブランドの一貫性を保護しました。
また、将来の拡張性も考慮し、新メニューの追加、季節イベント、SNS投稿など様々なシチュエーションでの使用例も含めました。これにより、クライアントが自社でマーケティング活動を行う際も、ブランドの一貫性を維持できます。
プロジェクト成果と学び
和音は2024年12月にオープンし、開店から3ヶ月で予約が取りにくい人気店となりました。ブランディングの成功指標として、SNSでの言及数、リピート率、平均客単価すべてが当初の目標を上回りました。
特に印象的だったのは、海外からの観光客にも強くアピールできたことです。「日本らしさを感じながらも洗練されている」という評価を多数いただき、ブランドコンセプトが正確に伝わっていることが確認できました。
実践で学ぶブランディングの本質
このプロジェクトを通じて学んだ最も重要なことは、ブランディングは単なる視覚デザインではないということです。クライアントのビジネス目標、ターゲット顧客の期待、市場環境、そして将来のビジョンすべてを統合的に考慮する必要があります。
また、デザイナーの役割は美しいものを作ることだけではなく、ビジネスの成功に貢献することです。そのためには、デザインの判断一つ一つに明確な根拠と戦略的思考が必要です。
Echo Creative Studioでは、このような実際のプロジェクトを教材として使用し、学生の皆さんがリアルなブランディングプロセスを体験できるよう指導しています。理論だけでなく、実践を通じて真のデザイン力を身につけていただけるよう、全力でサポートしています。